詩人で実践家「宮沢賢治」の「雨にも負けず」という詩歌は皆さんご存じですが,私はこの詩(うた)はケースワークの原点だと強く思ってきました。
書き出しの数行は有名ですが,全文をご覧になっておられない皆様に少しお話しさせていただきます。
数行ずついきます…
雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫な体を持ち
↑最初の4行はケースワーカーの基本として身体的に健康(強靱)でなければならないということです。つづけます…
欲は無く
決して怒らず
いつも静かに笑っている
↑ここではメンタル面も無欲で平穏で,笑顔の人であれということです。
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜を食べ
↑そうです,相談者の金銭浪費を咎め(とがめ)ながら自分は連日のグルメ三昧では失格!質素倹約に努(つと)めること,
あらゆることを
自分を勘定に入れずに
↑金銭的な損得はもちろん,機関や組織等における自分の立場・出世などを計算せずに,
良く見聞きし分かり
そして忘れず
↑詳細に調査して正確にケース記録(記憶)し,
野原の松の林の陰の
小さな萓葺きの小屋に居て
↑賢治の「羅須地人協会」(瓦葺きですが)のことです。
東に病気の子供あれば
行って看病してやり
西に疲れた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って怖がらなくてもいいと言い
北に喧嘩や訴訟があれば
つまらないから止めろと言い
↑「児童福祉」「医療福祉」「母子福祉」「ターミナルケア」「司法福祉」です。
今でこそ当たり前ですが「救貧」中心の当時としては生活の実際に視点を据えた先進的な意識・取組と考えます。
とりわけ「つまらないから止めろ」という台詞(せりふ)には感動して,現役の時に良く引用(助言)させていただきました(家内にも?笑…ここ大事!)
日照りの時は涙を流し
寒さの夏(注:冷害)はおろおろ歩き
↑そうです,非力な自分が何も支援できない時には,せめて共感の涙を流すことしかできません。(あの面接室で相談者と共にため息だけの時間を共有しました)
皆にでくの棒と呼ばれ
↑「クライエントの目線に合わせて対等に」とは言いますが,賢治は自身の立場を一段下げて(でくの棒として)下から目線です。
ほめられもせず
苦にもされず
↑嫌み(いやみ)な言い方ですが,寄付御礼やボランティア感謝状などは眼中になく…
そういう者に
私はなりたい
↑私はいつもこの最終行で救われます。この詩歌も賢治の努力目標であって「自分にもやれるかも知れない」と勇気をもらえたからです。
※ロジャースの教師向け講演の中に「もし,私にもこのようなことができるならば…」という全く同様の言い回しがあります。洋の東西を問わず本物は同じなのですね。
この詩は賢治死後の遺品の手帳に私的メモとして静かに手書きされていたものです。受け狙いの出版原稿などではなく賢治自身の実践目標として「本物」だと思いました。
長文におつきあいいただきましたこと感謝申し上げます。
<全文再掲>
雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫な体を持ち
欲は無く
決して怒らず
いつも静かに笑っている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜を食べ
あらゆることを
自分を勘定に入れずに
良く見聞きし分かり
そして忘れず
野原の松の林の陰の
小さな萓葺きの小屋に居て
東に病気の子供あれば
行って看病してやり
西に疲れた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って怖がらなくてもいいと言い
北に喧嘩や訴訟があれば
つまらないから止めろと言い
日照りの時は涙を流し
寒さの夏はおろおろ歩き
皆にでくの棒と呼ばれ
ほめられもせず
苦にもされず
そういう者に
私はなりたい